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バベル (2006) France/ USA/ Mexico <Babel> [film reviews]

 "バベルの塔"ならぬ "バベルの壁"が立ちはだかっていて、なかなかレビューが書けなかった今作。ある試験勉強をはじめたり大きなプレゼンが二つ重なったりと、結局五月はトータル4本のまま後10日を残すのみになってしまいました。試験勉強の為に朝7時に会社へ行き、日中は睡魔と戦ってシゴトも捗らず、夜になって覚醒するから居残り時間もふえてしまい悪循環(苦笑)

   山間を抜けるバスに乗っていたアメリカ人夫婦・リチャードとスーザン。遠方から山羊の群れを伴った少年が放った銃弾が、スーザンの肩を直撃する。彼らの幼い子供たちのナニー・アメリアは、息子の結婚式の為に故郷メキシコへ帰り、戻らない夫婦を諦め子供たちを連れて行くことに。事件を起こしたライフルは、東京在住の日本人、ヤスジローのものだった。

   バベルの塔建設によって神の怒りをかい、言葉を隔たれた愚かな人々、今作にも言葉の壁よる苦痛やもどかしさが所々みられ、日々この壁をひしひしと感じながら外国人と暮らしている私は、自身の胸のうちへの反響が激しく、又、イギリスにいた間に伴った、言葉が思い通りに操れない故に起こる差別や憤りを思い出すきっかけにもなった。

   しかし、実際に解かり合えていないのは、同じ言葉を喋るもの同士だったことが印象的だ。アメリカ人夫婦、モロッコ人親子、そして日本人の父娘。難しい役どころだった菊地凛子が堂々としていた所も、ブラピを初めて良いなと思ったことも大きな収穫だったが、実は今作の縮図は資本主義そのものにみえた。

   『資本論』を書いたマルクスは、資本主義を「生産手段がごく少数の資本家に集中し、一方、自身の労働力を切り売りするしか生活手段のない大多数の労働者が存在する生産様式」と定義している。強引なこじつけともいえるけれど、少数の資本家はリチャード&スーザン夫妻やヤスジロー、労働力を提供するのはアメリアやモロッコの親子と捉えられる。

   資本主義の生む問題点といえる労働環境の悪さ、社会保障の不備、低賃金、貧富の格差がスクリーンから随所に感じられ、又、人生を根底から変えてしまう運命にさらされたのは、結果としてアメリアとモロッコの親子だったことが象徴的だった。4つの遠く離れた舞台は、一本のライフル銃以上の漠然としたやるせない連鎖によって繋がっているようだった。

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国籍や暮らしてきた環境によって捉える視点が異なる、問題作

バベル プレミアムエディション [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ギャガ・コミュニケーションズ
  • メディア: DVD

 

◇監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ <Alejandro Gonzalez Inarritu> ◇脚本:ギジェルモ・アリアガ <Guillermo Arriaga> ◇撮影:ロドリゴ・プリエト <Rodrigo Prieto> ◇編集:ダグラス・クライズ <Douglas Crise> スティーブン・ミリオン <Stephen Mirrione> ◇音楽:グスターボ・サンタオラヤ <Gabriel Yared> ◇出演:ブラッド・ピット <Brad Pitt> ケイト・ブランシェット <Cate Blanchett> ガエル・ガルシア・ベルナル <Gael Garcia Bernal> 役所広司 <Koji Yakusho> 菊地凛子 <Rinko Kikuchi> 二階堂智 <Satoshi Nikaido> アドリアナ・バラ-ザ <Adriana Barraza> エル・ファニング <Elle Fanning> ネイサン・ギャンブル <Nathan Gamble>


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コメント 8

Catcat44

確かにそうかもしれませんね。
さすがにマルクスまでは知らないのですけど、4組の登場人物達の中で、明るい先が見えるのが、アメリカ人夫婦と、日本の親子。
逆に、先がなくなってしまったのが、モロッコの親子と、アメリア。
生活水準の問題が、全ての根源になっているって言っても言い過ぎじゃないくらい、言葉や気持ちじゃどうしようもない問題として、提示されていますものね。
見ていて苦しくなったけど、とても良い作品だと思いました。
by Catcat44 (2007-05-20 17:48) 

クリス

LICCAさん、
nice!をありがとうございます♪
ほんとに、生活水準の差が如実に表れていたと思います。
私も、ほんとうに苦しい作品でしたが、又観たいなと感じています。ガエル君が結局何処へ行っちゃったのか、非常に気になりますf^-^;
by クリス (2007-05-20 20:03) 

ミック

私はやっぱり、アメリカにいた時、日本の様になんでも便利に進まない状況を思い出しながら、見ていました。
そして、全員の行動の先に起こる事件は外国に住んでいたら当たり前の様に起こる事なので、「敢えて今更ながら訴える事なのか?」と、思えてなりませんでした。
一本のライフルが話を繋げている事も辻褄合わせの様に思えてしまい、「バベルの壁」と相成りました。
それにしても、ガエルくんはとっても美少年で素敵でした^^。
by ミック (2007-05-21 00:38) 

ジジョ

わたしはこの映画を観て、なんとも説明できない気持ちが残りました。
今も「これ!」という感想が言葉にならない感じです。
資本主義かー。なるほどー☆
この映画、いろんな捉え方があっておもしろいですね(^-^)
by ジジョ (2007-05-21 03:04) 

こんばんは~
資本主義とは!蟻銀さんの観察眼には唸らされるなぁ。
確かに、バベルの割には言葉の壁と言う印象は受けませんでしたね。それなりに自分でも解釈してはいるのですが、まぁ言葉どうのこうのより、思いが伝わらない切なさだったのかなという感じです。
それにしても、これほど観終わった後に考えなくてはならない映画は久しぶりだったな。
by (2007-05-22 01:38) 

敏 悌次

おしゃる様に意味深い映画ですね。

最近(遅ればせながら)「日の名残り」の原作を読んでから、DVDを借りて観ました。
このDVDは「特典」も力作で、この話の底の深さを知らされました。

「バベル」は劇場で観ましたが、DVDが出たらもう一度観て
「特典」で復習をしたいと思っています。
by 敏 悌次 (2007-05-25 21:58) 

berry

相変わらずご無沙汰ばかり。スミマセン ......
なかなか奥の深い作品だったのですね。
蟻銀さんの記事を読んでから映画を観るのも悪くない。
(わたしの)空っぽの頭もいいけど、ちょっと視線を決めておくのもいいかな。そんなことをフッと思いました。(笑)
by berry (2007-05-26 08:20) 

クリス

皆さん、nice!にコメントをありがとうございます♪コメントが遅くなりまして、ごめんなさい。

>ミックさん
確かに、ああいった不自由さは日常茶飯事ですよね。ただ、各国の対比が絶妙だったんじゃないかなと。
ガエルは最高ですね。渋谷へ行くのが面倒だけど、「恋愛睡眠~」もはやく観たいです!

>ジジョさん
そうですね、ガツンとくるものがあるんですが、言葉で捉えようとするとはっきりとコレっていえない奥の深さがありますよね。

>トチオさん
資本主義も強引かなって思いましたが、世界を一つにみようとすると、そういう図は浮かびますよねf^-^; 「バベル」は重かったけど重さがヘビーじゃなくて、心地良い荷重でした。又観たいです。

>宝塚さん
「日の名残り」のDVD特典は満載なんですか?私もDVD持ってますが、UK版なんで中身が若干違うかもしれませんねー。

>berryさん
こちらこそご無沙汰してます!
「バベル」は良いですよ♪夫婦で休日に映画館も、たまには良いですよね。
by クリス (2007-05-26 16:39) 

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