トランス (2013) UK <Trance> [film reviews]
ゴヤの傑作、「魔女たちの飛翔」がオークション会場から盗まれる。実行犯は競売人のサイモンだったが、記憶の一部を失ったために名画の隠し場所が解らなくなる。サイモンの仲間だったギャングのリーダー、フランクは怒り狂うが、催眠療法でサイモンの記憶を探るためエリザベスを雇う。しかし、嘘と秘密にまみれた三者の思惑は入り乱れ、事態は思いもよらぬ方向へと転がりはじめる。
劇場を後にする際、コーフン覚めやらず、でした。ジェームズ・マカヴォイ好きとしては、今作を一言で表すなら「哀」です。はじめと終わりにおいて、サイモンほど印象の変わった人物はいませんでしたが、それでもサイモンに寄せた心は最後迄離れませんでした。もう一度観て、観逃したところを潰したいと思い再チャレしたんですが、二度観て更によくなるという、信じがたい作品です。
名画の隠し場所が思い出せないサイモン、隠し場所に執着するフランク、サイモンの記憶を操るエリザベス。三人の絡み合った思惑に、催眠と非催眠の時間が複雑に混じり合う深い描写でしたが、とても解り易く構成されていたのはダニー・ボイル監督の円熟味を増した技だと思います。今作の撮影後、編集に掛かる前にロンドンオリンピックがあったことが功を奏したと監督も言っています。
一度目の鑑賞は、ヴォイファンということもあってサイモンしかみていませんでした。けれど、二度目はすべてを知ってエリザベスの感情にもガチに触れたため、涙が出ました。また、サイモンの車のキーについていたキーホルダーは、トルコのナザールでした。「魔除け・邪視よけ」に効果があるんですが、強い嫉妬や羨望、悪意を跳ねのけたかったのは、他ならぬサイモンだったんですね。
◇監督:ダニー・ボイル 『シャロウ・グレイブ』
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