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悪人 (2010 ) Japan <Villain> [film reviews]

   深津ちゃんのモントリオールがあったりして、公開日に観れるかな? とちょっと心配していましたが、12時45分からの日比谷みゆき座、最後の席をゲット。片田舎のなにごともない静かな風景に、たしかに感じる彼らの息遣いが、孤独を感じながらも生きるしかないという、そんな閉塞感をスクリーンいっぱいに感じさせる作品でした。心地よい緊張感が持続する、良作でした。

   長崎のさびれた漁村出身の祐一は、祖父母の面倒をみながら解体作業員と働く、孤独な日々を送っていた。ある日、出会い系サイトから知り合った福岡の女性・佳乃を殺害してしまった彼。そこへ、1通のメールが届く。それはかつてメールをやりとりした佐賀の光代だった。紳士服量販店に働き、妹と暮らすアパートとの往復しかない彼女の毎日も、孤独に押し潰されていた。

   今作は、キャッチコピーにもなっている、「なぜ殺したか?」と「なぜ愛したか?」、そして「誰がほんとうの "悪人" なのか」をあぶり出し、そしてオーディエンスに判断を委ねる作品です。祐一は、殺人を犯したがために社会的 "悪人" となりますが、その殺人が起こる迄と起こった後に描かれる今作の人物1人1人に、 "悪人" たる一面がみうけられます。"絶対悪" じゃないんです。

   広辞苑には、"悪人"=心が邪悪な人 とあります。それって、私たちの誰もが心のどこかに持っていて、暮らしの中にひょんなことからむき出しになる感情です。そしてそのことが、ほんの小さなボタンの掛けちがいによって、誰もが祐一となりえる存在なんだと、そう作品が語っている気がしました。地方都市に住む若者の、自身の将来へのやりきれなさも感じます。

   深津っちゃんは、祐一とのベッドシーンの表情1つ1つに、光代の乾きと開花した女性らしさを感じられて、納得の女優賞でした。そして、それを受けた妻夫木くんの淡々とした表情の中にも感じさせる感情の移ろいや、祐一をそだてた婆ちゃん(樹木希林)の意地、そして一人娘を失い、身勝手に他人を責め続ける佳乃の父(榎本明)と、いい役者に支えられた一作です。

   おまけ。作品の舞台となった、長崎、佐賀、福岡へは、たまたまこの3月に旅していました。祐一と光代とおなじく、佐賀の呼子いってイカ食べたり、国道263号を走ったり。『天然コケッコー』もそうだったけれど、知っている風景がスクリーンに映って、うれしくなりました。今作の象徴となるあの大瀬崎灯台にも、いつかいきたいですね。ロケ地めぐり、したいなぁ。

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◇監督:李相日 『69 sixty nine』、『スクラップ・ヘブン』
◇出演:妻夫木聡 『さよなら、クロ』、『やわらかい生活』
     深津絵里 『(ハル)』、『ホノカアボーイ』
     樹木希林 『下妻物語』、『サイドカーに犬』
     榎本明 『桜田門外ノ変』、『死刑台のエレベーター』
     満島ひかり 『愛のむきだし』、『食堂かたつむり』
     岡田将生 『アヒルと鴨のコインロッカー』、『天然コケッコー』

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コメント 8

perseus

こんばんは。
基本邦画好きですので、この『悪人』には非常に興味を
持っています。最近映画館にもなかなか行けずですが、
ぜひ見てみたいですね^^
by perseus (2010-09-14 01:22) 

クリス

こんばんは~。
ぜひぜひ、今作はおすすめしますよ。
決して明るくたのしいはなしじゃありませんが、映画の題材、疑問点を
しっかり解決してくれるため、後味は悪くありません。
nice!をありがとうございました。
by クリス (2010-09-14 19:34) 

kuwachan

こんにちは。
邦画はあまり観ないのですが(^^ゞ、昨日観に行ってきました(*^^)v
画面に引き込まれました。灯台からの風景素晴らしかったですね。
by kuwachan (2010-09-15 12:59) 

yukikaze

これはぜひ見たいのですが、時間ができるかどうか・・・。
by yukikaze (2010-09-15 15:46) 

きさ

妻夫木聡は人間的な弱さを持つ役を説得力を持って演じていました。
深津絵里は素晴らしいですね。
原作では20代の役だそうですが、他の役者さんは思い浮かばないくらいの適役でした。
原作のイメージでは冴えない男女のハナシなんでしょうが、そこは映画では美男美女ですから、、
本当に美しくない俳優が演じたらどうなったか、とちょっと思いました。
俳優さんはみないいですね。
特に、岡田将生、満島ひかり、柄本明、樹木希林の主要脇役には圧倒されました。
ちらっと出てくる役者さんまでみないいですね。
by きさ (2010-09-16 05:43) 

クリス

kuwachanさん、
おはようございます。
わたしも、邦画はそんなに観ないんですが、今作は作品の主題といい役者といい、
ずっと気になってました。あの灯台、いってみたくてしかたありません。
nice!をありがとうございます。

yukikazeさん、
おはようございます。
DVDで観てもいいと思いますよ。けれど、肝となる灯台の風景がとてもいいので、
それはやっぱりスクリーン鑑賞をおすすめします。
nice!をありがとうございます。

きささん、
俳優はみな、よかったですね。なにげに、祐一のじいちゃんも印象に残ってます。
原作も買ってみました。じっくり、読みたいと思います。
nice!をありがとうございます。

by クリス (2010-09-16 06:41) 

lucksun

クリスさん、本作のテーマを的確に書かれてますね。さすがです。
善悪の境目や悪人の定義、
モラルや常識を疑うことを試されたような気もしました。
ロケ地めぐり、したくなりますね。
by lucksun (2010-09-17 01:00) 

クリス

悪人の定義も、解釈によってはもっと膨らみそうな気さえします。
結果として、社会的に裁かれなければならない罪を犯したのは
祐一だったけれど、みなそれぞれに罪は作ってた気がして。

とてもいい映画でしたね。
今、原作を読みはじめました~。
nice!をありがとうございます。
by クリス (2010-09-18 01:09) 

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